すっかり師走の時期となりました。みなさん、いかがお過ごしですか?
ショップインタビュー17弾は、伝統を守りながら常に新しい試みに挑戦し続ける「堀口切子」様です。
代表取締役社長・三代秀石の堀口徹様にお話を伺いました。

Q.海外の取引先の社長が、日本酒が大好きで、誕生日に堀口切子様のグラスを贈らせていただきました。とっても喜んでいただけました。

そうでしたか笑 それはそれは、ありがとうございます。

Q.堀口硝子に23歳の時に入社されたと伺いました。

㈱堀口硝子は祖父が創業した会社で、もともと硝子の加工全般をしている会社でした。
会社の規模が大きく、切子以外も手がけています。
堀口切子は独立して、より切子に特化した別法人として立ち上げた会社になります。

Q.堀口硝子に入社された時に二代目秀石にお会いされたのですか?

家族経営に近かったので自分が小さい時から知っていましたし、工場も自宅から20メートルしか離れていなかったので身近に感じていた存在でしたね。
入社と同時に技術者として修行のため二代目秀石に師事しました。

Q.二代目秀石のお弟子さんは何人いるのですか?

堀口硝子の工場長をしていましたので、従業員や部下を弟子として含めるかどうか、微妙ではありますがカット教室の先生をしていたので、その生徒さんを含めると数百人はいます。

Q.その中で秀石と名乗れる人は?

自分一人です。

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Qなぜ独立したのですか?

江戸切子職人になりたくて堀口硝子に入ったわけですが、切子だけやるわけには行かないんですよね。
ガラスと関係なく誰か欠員が出ればヘルプでその欠員を補わなくてはならない。
おかげでいろいろな業務が学べたことは勉強になりました。

「1回きりの人生で、自分は本当に何をやりたいのか?」
という自問に対して、
「江戸切子をやりたい。」と考えた時に、
30代、40代で、どういう技術を身につけられるか非常に重要なウエイトだと感じました。
このまま、会社の体制を整えているうちに人を上手く配置し直して、自分の手があいて気が付けば45歳では遅い。
そこから技術を覚えるのは基本的にうまくいかないだろう、と読み、ならば、独立しようと決意しました。

工場も変えて本格的に始めましたところ、実際やってみると、当然、経営をしなくちゃいけない。
現場以外のこともやる。それでも断然現場の仕事量が増えて良かったと思っています。
9年間過ごした堀口硝子時代を振り返ると、そこでしか味わえない経験、業務が経営に活かされています。

Q.職人さんは30代~40代がキーポイントになると仰られましたが、
大事な点はどんな点ですか?

そんなにサラリーマンの方と変わらないと思います。私はいま39歳なんですが、
自分の考えとしては
20代はあまり考えずにひたすら働く。技術、技術、でいいと思いますし。
30代はむやみやたら働くのは違う年代。
任されることもちょっとずつ増え、
”こうやって働くんだ”と勘所を自分なりにつかむ時期。
40代は働き方により確信を持ちながら、より効率的に何に重点をおいて働くか見えてくる。
体力も気力もある。

そんな勢いで50代を乗り切って、60代で立ち止まり、70代、80代ではこの仕事で何を成し遂げたいのか、何をやりたいのか。今までやってきたことを見直したり。
最終的に自分らしいもの、自分でないとできないことを
70代、80代で見つけたいなと考えています。
50代で乗り切るには30,40代でしっかり働くことが必要だと思います。

Q.そのヴィジョンはどんな時に感じたのですか?

60代で立ち止まり、というのは二代目の働きぶりを見てすごく影響を受けています。
二代目は、60代で定年退職をし、2~3年は自分の作品活動をしていました。
その後、一般の方が気軽に江戸切子を体験できる「カット教室」を始めたんです。
一般の方にカットを広めよう。カットを楽しんでもらおう、江戸切子を身近に楽しんでもらおう。
といった方向に70代、80代を費やしました。
自分はそういうこともしたいな、と思いつつ、どういう形になるかはわかりませんが、いったん60代で立ち止まってその後の方向性を決めたいと考えています。

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Q.宮崎駿監督もアルプスの少女を書いていた30~40代、尋常ではない量の背景を書きまくっていたと聞いたことがあります。
今は80歳を超えてジブリ美術館で子供のための短編集を書き続けています。それと共通するものを感じます。

確かに江戸切子は特殊かもしれませんですが基本的にはいろんな職業とそう変わらない、と思うんです。

どれくらいで一人前になりますか?と尋ねられることがあります。
例えば、トラぶった時にどこに連絡してどう収めるのか。
他の職業だったらどうでしょう?6年、8年やれば適切にできる。自分たちも同じでそれくらいの年月が経てば、色々な経験も積み知識も増える。かといって成長に終わりはない。
サラリーマンも同じじゃないですか?

唯一違う点が、扱っているものが伝統工芸。伝統工芸の看板によって、非常に恩恵を受けています。自分が作っている物自体はいい意味で江戸切子っぽくないね、
と言われることがあります。それは、江戸切子が伝統工芸であるがゆえに言われることです。
伝統工芸としての本流がなければ「外れる」もなにもない。そういう意味では得をしている。
江戸切子という伝統工芸の恩恵に授かっているわけです。だとするならばその恩恵に報いなければいけないという意識があります。

江戸切子に対して報いる、というのは、どういうことか。
つまり、ひとりでも多くの人に喜んでもらう、感動してもらうこと。
メディアに出て多くの人に知ってもらうこと、が挙げられます。

それと、自分の中でマストだと考えているのが、弟子を作ることです。
弟子を作ることは広めること。
現在、江戸切子の職人は100人ぐらい。職人らは誰かしらから習っている。つまり今の職人が弟子を持ったらそれだけ切子を広める人が増えます。継承することが報いることにもつながると信じています。

Q.堀口さんの作品はどんな点が江戸切子っぽくないと言われますか?

基本的に江戸切子はカットのデザインも色模様も自由で、何でもありなんです。
自由度の高い伝統工芸なんです。それゆえに、デザインとしても色や用途など色々な点でチャレンジしている点かもしれません。

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Q.元のデザインがあって組み合わせてもいいのですか?

もちろん、かまいません。
実は、一般的に江戸切子のイメージと言うと
昭和中期、後期のものが「江戸切子っぽい」と言われています。

昭和中期・後期の江戸切子

Q.カットがシンプルですね。

モダンじゃないですか?デザインも時代によって変わってくる。
ファッションであれば半年ごとにデザインが変わりますが、
自分たち江戸切子の世界では、30~50年周期でデザインが変わっているように思えます。
普段遣いのパーソナルユースの作品ですとこういったものになります。

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大正・昭和初期の江戸切子

Q.私はそば猪口で日本酒を頂いています。

一般の江戸切子はカットが細かく色を増やすことが多くなっています。
それに対し、自分の作品は逆に減らしていく。
足し算の考え方と引き算の考え方とも言えると思います。
色が多いと飾るのはいいのですが、
使うことを考えれば、スキ(透明)もおススメです。
しかしそれも、オブジェ的なものと実用的なものでは違います。

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Q.基本的に使ってもらうことが前提なのですね。

より美しく、より使いやすく、を心がけています。
HPも、コーポレートサイトとオンラインショップでは構成が全く違います。
江戸切子も同じで、一品ものは飾ってもらうことが多いので、オブジェとして制作することが多いです。
例えばシャープに見せたい場合は切れそうになるくらい鋭く切り込みを入れることもあります。取扱いよりも、イメージを重視しています。
また、使ってもらいたい場合は、飲み物が入ったときにちょうどいい、持ち心地がよい、
口当たりがいい、といった実用的なことを優先させています。

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Q.どちらが好きですか?

どちらも好きです(笑)
自分の中で4本柱を持っています。

ひとつは作品作り。自分が表現したいものを作ります。
2つめは、パーソナルユースの器
3つめは、料理屋さんで使っていただくプロユースの器。
4つめは、加工依頼のもの。純粋にガラス加工として自分ならではの技術が活かせるような仕事。

プロユースの場合は、リクエストがとても明確です。
店の照明に合う、料理が映える、器の重量、等
縛りが多い中で、パフォーマンスを発揮することはとても面白く、やりがいがあります。

Q.制約条件の中で答えを導く面白さ、ということですね。

クイズを解いていくような面白さがありますね。

 

前編はここまでです!続きは後日公開予定の後編にてお届けいたします。お楽しみに!

 

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